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秋も深まったなぁと思うのは、朝晩の冷え込みからもだが、日暮れが随分と早まるせいもあげられて。秋の日はつるべ落としとはよく言ったもの、あら暮れて来たかしらと思うと後はあっと言う間で、明かりをとっとと用意しないと、家の中でも余計な怪我をしかねない。
「…っと、この辺ですぜ、親分。」
何の紋もない白張りの小さな提灯をかざし、ウソップが照らしたのは何てこともない小さな小道。真っ直ぐ進めば小さな神社へ連なる土の道で、家並みの連なりからひょっこりと外れた感があるが、振り返れば一番近い町屋が見えるほどだから、さほどに寂しいというほどでもなくて。元は何かしらのお屋敷でもあったのか、片側がちょっとした野原の端に接している、何の変哲もない道端だ。
『いえね。
昨夜、お使いものの帰りに通ったら、どこからか声が聞こえたんですよ。』
犬でもいるのか、はたまた良からぬ人でも潜んでいたか。ハッとして立ちすくんだが、特に誰かが飛び出して来るでなし。空耳だったかなと気を取り直して歩み始めるとまた、どこからだろうか、ぼそぼそと声がする。傍らの原っぱは、結構な草の茂りようではあるけれど、人が潜めるほどには高い茂みもないし、いい月夜だったんで誰かいれば見えるはずで、なのに誰もいないまま。変だな、疲れているのかなとまた歩きだしたら、今度は、
『あのあのすいません、て。間違いなく人声が聞こえるもんだから。』
思い返せば、随分と腰が低い言いようなんですけれど。聞いたときはそれどころじゃあない。誰もいないのに声がするなんて気持ち悪いって、飛んで帰って一晩眠れずで通してしまった。ところが、その話を近所でしたところ、あらアタシもと言い出す人が結構いたそうで。気味が悪いから誰にも言わないでいたのというお人ばかりが出るわ出るわ。
「とはいえ、実害は出てないんだ。だから何処へ届けりゃいいんだかって、困ってたらしくてな。」
「俺らだってそんな怪談の解決はお役目じゃないっすよ。」
つか、そんなん子供の悪戯じゃありませんかと、そういう意味合いで少々うんざりしているらしきウソップで。
「実害が出てないってのは、体調がおかしくなったとか、祟りみたいな突拍子もない事故があったとか、そういう後腐れはないってことなんでしょう?」
「おお。むしろ、用心深くなったんで、おっちょこちょいで有名だったおかみさんがいたんだが、その人、この1週間ってもの、指切ったりしてねぇんだと。」
かかかと笑った親分へ、御利益があったほどなんなら、いっそ放っておきませんか?それ、と。こちらさんはこの寒いのに、しかもお役目でもないのにと ぶうたれることしきり。何せ昼間の当番仕事が増えているので、休めるときには休みたいらしく。だってのと丁度反比例、
「何言ってんだ、ウソップ。お化けかも知れねぇんだぜ?」
ルフィ親分、妙に張り切っております。大きなドングリ眸に、きららんと星が散ってるくらいです。
「もう秋ですよ? お彼岸だってとうに過ぎたのに、お化けも幽霊も寝てますよ。」
「じゃあ、寝そびれたのがいるんだぜ? 退屈だから、声かけて来てんだ。」
そもそもお化けって寝るのかな…? 鬼太郎の歌じゃあ、昼は墓場でぐうぐうぐうと昼寝するみたいな言いようだけれど。今宵もいい月が昇っており、びろうどを敷いたような深みのある漆黒の夜空に、星々の瞬きが散りばめられてて何とも綺麗。草むらを揺らす風が少しばかり冷たくて。ああ、でもあんな綺麗なの、誰かと寄り添って見上げれば、寒いのなんて飛んでくだろに……。
「町方のお人ですか? お役目ご苦労様ですね。」
「なに、これも仕事だ。」
「でも、そんな薄着じゃあ風邪を引きますよ? 綿入れでも重ね着なさったら。」
「そうなんだよな。そういう準備をして来なかった。」
「ははあ、ちょっとせっかちさんなようですね、親分は。」
「悪かったな。」
ちょいと膨れると、あああすんませんと、謝る声が届いたが、
「……………親分、誰と話してんですか?」
「誰ってお前。」
通りすがりらしいこの人とと、指差しかけた親分だったが、声がした方には誰の姿もない。空を見上げたままだったので、てっきり通りかかった人がいたものと思い込んでのやり取りであり、
「あれれぇ?」
「あれれぇぢゃないですよっ!」
空耳かなあ? いいえおれにもきこえてました。何でお前、さっきから全部平仮名で喋ってんだ? だっておやぶん、いまのこえって…。
「どこにもだれもいないんですよ?」
「そうみたいだな。」
それを調べに来たんだろうが、おかしな奴だと笑うルフィと違い。こちらは悪戯と決めてかかっていたもんだから、本当に不思議な案配で聞こえた声へ、ウソップが一気に震え出したのもまた無理はなく。
「子供の声じゃあなかったし、伝声管とかいうので遠くから話しかけることが出来るってのをチョッパーせんせーから聞いて来たが、滅多に人が通らねぇとこにそんなもんをわざわざ仕掛けるってのも妙な話だ。」
とはいえ、声がしたのは足元からでもあったので。伝声管説もあながち遠くはないかもと、傍らに広がる原っぱを見やる。確かに大人がうずくまったとて、背中まで隠し切れはしなかろう程度の草っ原であり。地面へ穴掘ってもぐったら判らぬが、そこまでやってするほどの悪戯だろか。ここは神社に行く人帰る人しか通らない。しかもいつ誰が通るかも判らない。そんなのを待ち受けての悪戯に、そこまで頑張る意味が果たしてあるものだろか?
「う〜んと。」
「お、親分っ!」
原っぱの方へ、迷いなく踏み出したルフィだったのへ、ウソップが素っ頓狂な声を上げた。なんだどしたと、驚いて振り返ったルフィだったが、
「なにしてんですよ、おやぶん。そんなとこにはいってったら、てんぐにさらわれてあたまからくわれますぜ?」
「あのな。」
言ってることが支離滅裂だぞと、苦笑しつつも踏み出しかけてた足を引けば、
「あっ、そこはやめてください。あなた髪の毛踏んでます。」
「えっ? えっ?」
いきなりの声が、しかも妙に切迫したのが聞こえて来たので、あわわと驚いたルフィがたたらを踏んでしまい、よろよろっと後ずさりして道の上へ尻餅をついた。痛てててとつぶやいてのなんとはなしに見やった先に、
「……あ。」
何か誰かと視線が合った。こんな低いんじゃあ、誰も気づきはしないや成程と。手前の草むらをガサゴソと左右に割ったらその途端に、
「ひぃいぃぃぃ…………っっ!!!」
記録ものじゃあなかろうかというほども、長々と尾を引く甲高い悲鳴を上げたウソップであり。それもそのはず、草むらにいたのは“誰か”じゃなくての“何か”、すっかりと肉も落ちての乾いて白い、白骨化した されこうべだったのだ。
「あ、気絶した。」
「ありゃりゃあ、すいませんねぇ。名乗りもしないで不調法をして。」
おいおいおいおい。そこか、そこなのか、問題なのは。
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あ、タイトル忘れてた。
月夜見 “刀と されこうべ”
*TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
*と、言うわけで、
何だか変なお話、しかも連載となります。どかご容赦をvv
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